別れ

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別れ

 最後に桐島に会ったのは、四日前の夜だった。  再会の日と同じく、桜の下だった。 「考え直す気はないか?」  僕の言葉に、桐島は答えなかった。桐島の手首を見つめた。痣は一つもない。白い肌に静脈が浮かび上がっている。桐島と離れたくなかった。 「君は後悔すると思う」 「だけどね、武男くん」  桐島が顔を上げ、桜の根元を見つめた。 「あたし、あの日から、もうずっと後悔しているの。彼を殺した日からずっと」  あの日から桐島とは何度も会っていたが、その話題が出るのは初めてだった。僕から話をすることはなかった。桐島がその話はしないでと言ったからだ。  あの日、僕は死体を車に乗せ、桜の咲いている場所まで運び、穴を掘って埋めた。アパートに戻ったのは、夜が明けてからだった。 「何も言わないで」  部屋に入り説明しようとした僕に、桐島は悲鳴のような声を上げた。 「何も言わないで。お願い。手を洗ってきて」 「あの桜の木に埋めたよ」 「言わないでって言ってるでしょう」  桐島は両手で耳をふさぐと、泣きそうな顔で喚いた。僕は黙ったまま台所に行って、手にこびりついた土と大量の血を洗い流した。
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