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だけど、今の僕にはそれはもうどうでもいい。
戻れない過去、出来なかった過去、そして……信じていた期待を裏切られた気持ちがあるから。
あの人たちを信じることはもう出来ない。出来なくなってしまった。
けど、その代わりに新しい人を信じられるようになった。僕のお母さん。本当のお母さんじゃないけど、血は繋がっていないけど、僕のお母さんだ。
誰よりも優しくて、誰よりも優しくて……大好きな人だ。
「ん? どしたの、ノア?」
「……何でもない」
「変なノアだね。……それはそうと私から提案があるのだが、聞くかね?」
どこぞの先生みたいな言い方をして提案を聞いてほしそうな質問だ。それはもう質問じゃない。強制的に聞かされているが、それでも一応聞いておこう。
「聞きます」
「よし来た。ノアも大きくなったし、街に遊びに行こうと思っています。どうかな? 嫌な思いがあるのなら行かなくてもいいんだけど……」
「心配しなくてもお母さんが想像しているようなことはありませんよ。街には何の抵抗もありません。強いて言えば……この恰好で大丈夫でしょうか?」
自分の服を見せびらかせるように、ひらひらと動かす。
僕の服はお母さんが買って来たものだ。買って来たと言うか、元々置いてあったものをそのまま使っていると言うか……とにかくお母さんが用意したものだ。
もし街に行くのだとしたら、この恰好をして笑われたら恥ずかしい。恥ずかしい上に、お母さんのファッションセンスを疑ってしまう。
「別に大丈夫じゃないか? どこにでもいる普通の男の子だと思うけど」
「僕個人としてはアベルさんみたいな服が欲しいんですけど」
「止めなさい。悪いことは言わない、止めておきなさい。あいつに影響されないの。なんで年がら年中黒の服で生活しているような男の服を気に入るのか……お母さんにはそれがわからないよ……」
アベルさんの服は別に気に入っているわけでもない。ただそう言う服を着てみたいだけだ。
だって、あの服は夏だと熱くて苦しいから。
それ以外の季節でも、何だか堅苦しい感じがして嫌だ。一回着ればそれで満足だ。
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