第三章 少年期【下】

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「まあ、ノアがファッションに目覚めたのは良いことだね。それじゃあ、街に行ったら最初に服を見に行こう。それから何か別の買い物でもしようか」 「一つ聞いて良いですか?」 「なにかな? 何でも言いたまえ」 「どうして街に行こうと思ったんですか? 別にここで生活していても問題ないと思うですけど……」 「単純に私が退屈だったから」  言葉を失った。僕の為でなく、自分の為に街に行く。遠回しにそう言ったのだから。  これが僕のお母さんだ。三年間、ずっと一緒に過ごしてきたからわかってはいるけど、わかりたくもない性格だ。 「んじゃ、明日出発だ。そして今からチェスで勝負しよう。どっちが荷物持ちになるか、だ」 「僕が持ったらダメなんですか?」 「チッチッチ」  人差し指を左右に振っている。この合図は一体何を意味しているのだろうか。今まで見たことも聞いたこともない。 「それじゃあ面白くない。人生はおもしろ、おかしく。何事も楽しむことが大切だ。こう考えればいい。『お母さんが買い過ぎたものを家に帰るまで延々と持たなくてもいい』と」  そんなに沢山買い物をする予定があるのか。何を買う気なんだろう……。  でも…… 「良いですよ。その代わり、僕が勝ったら一つ買ってほしいものが有ります」 「良いよ。じゃあ、勝負を始めよう。手加減してあげるから全力で挑んできなさい!」  出来れば全力を出してほしいけど、本気になったお母さん相手には全く歯が立たない。チェックメイトをかけるどころか、いつの間にかチェックメイトされている。いつの間にか駒がほとんど無くなっている。手加減を止めたお母さん相手では散々泣かされたものだ。  手加減されて挑んだ勝負。結果は…… 「チェックメイト。私の勝ち」  敗北した。それも二十数手で。  手加減をすると言ったのは嘘のようだ。最初から全力でかかってきた。勝てるわけがない。
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