第三章 少年期【下】

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「うーん、ノア。最近弱くなってない?」 「そうですか? 僕はいつも通りなんですけど……」 「弱いって言うか、護ることを徹底してやっている感じだね。攻めはしない、ただ護ることだけ。それじゃあ勝つことは出来ないよ」  勝つ気を無くさせたのはどちらだろうか、真剣に問い詰めたい。 「勝負としては悪いけど、性格は良いよ。ほら、見なさい」  僕の駒を指さす。 「キングとクイーンの周りに騎士がいる。騎士は王を守る者、女王を守る盾だ。その剣はただ一振りの剣として、真に護るべきものを護る盾として。ダイヤモンドのような忠誠心を持つ騎士は、命がけで王を護る。――まるでアーサー王に仕える栄えある栄光の騎士のようだ」 「あのイギリスの伝わる伝説ですか?」 「そうだよ。伝承に曰く、彼らは王に忠節の騎士だったそうだ。アーサー王が治めるキャメロットが崩壊しそうになった時、彼らは自らの未熟さを恥じた。”自分が未熟だったからこうなった”と思ったんだろう。反逆したモードレッドは知らないけど。そして、このキングの駒はアーサー。クイーンの駒は王妃のギネヴィア。その盾となったナイトの駒は十二人の騎士の中の誰か。……無意識でしたのか、それとも意識的にしたのかはわからないけど、これは『誰かを護る』と言う想いがあってこそ、出来ることだ。ノアは誰かを護りたいの?」  それは言えない。恥ずかしくて言えない。  だから僕は黙秘する。決して知られたくないことだから。 「ま、それはおいおい問い詰めるとしよう」  口が裂けても言わない。これは決めていることだ。 「街に出るのならお金を沢山持って行かないとね。盗られないように気を付けてくれよ、私の”騎士”様?」  なんだ、言わなくてもわかっているのか。意地悪な人だな。  まあ、そのことも三年の間で、嫌と言う程知ったから良いけど。
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