第三章 少年期【下】

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 手を差し出してきたので、これは握手だと思い、手を出して握った。お母さんとアベルさん以外の人の手を握るのは久しぶりだな。 「あなたの手……何だか硬いわ」  いつも畑仕事をしているから手の皮が硬くなったんだろう。 「お母さんの仕事を手伝っているからでしょうね」 「当ててあげる。……農家の人?」 「多分正解ですね。なんでわかったんですか?」 「私、超能力者なの」  一瞬言葉を失った。この人は何を言っているのだろう、そう思ったからだ。  僕が目を丸くしていると、彼女は嬉しそうな顔をして小さな声で笑った。 「冗談よ。そんな人、この世界にいる訳ないじゃない」 「で、ですよね。ビックリしました。そんな冗談を言うなんて……しかも初対面の人に」 「君が硬い顔をしているから和ませようと思って」  硬い顔……鏡でも持ってこないと自分じゃわからない。 「で、ちょっとお話しない? 私、退屈しているの」 「でも、ここで話をすれば皆の邪魔になるんじゃあ……」 「大丈夫よ。今は私たちしかいないもの」  周りを見回してみる。いつの間にか本を読んでいた人たちはいなくなっていた。ここにいるのは僕たちだけだ。だったら多少大きな声を出しても文句は言われないだろう。  でも、そんなに時間が経っていたのか……お母さんはまだ戻ってこないのかな。
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