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「ノアはこの辺の子?」
「いいえ。ずっと遠く、遠い田舎に住んでいます。周りには何もないんです」
「へえ。流石は農家の子供ね。だったらこの街には何で来たの?」
「お母さんに連れられて……」
「お母さん? お母さんはどこにいるの?」
「用事があるって言って……一時間で戻るって言って僕をここに」
「酷いお母さんね。自分の息子を放っておいて、どこかに行くなんて」
他人から見れば僕のお母さんは酷い人なのかな。
……いや、違う。酷いとは思っていない。優しい人だ。大好きな人だ。
ちょっとだけ腹が立ったけど、我慢をする。
「えーっと……ミナ、さんでしたっけ?」
「うん、そう。ミナ」
「ミナさんはここで何をしているんですか?」
「私? 私はただ家に居たくないだけ。ここで夜まで時間を潰しているの」
「なんでまた……」
「……聞きたい?」
ほんのさっきまで楽しそうな顔をしていたミナさんの顔がちょっとだけ険しくなった。これは聞いちゃいけない話のようだ。
聞きたくないと言って首を横に振る。
「おーい……」
誰かが図書館の中で大きな声を出している。その声が良く響き、まるでこだまのように反響していた。
でも、この声は……
「おや? ノアにガールフレンドでも出来たのかな?」
お母さんだ。お母さんが戻って来た。
「なんだ、ノア。可愛い顔をして、やることはやっているんじゃないか。この! この!」
肘で体を突かれる。やることって一体何なんだろう。
「君の名前は?」
「ミナです。さっきまでノアとお話していたんです。だからガールフレンドじゃないですよ」
「振られちゃったね、ノア。でも、大丈夫だよ。ノアなら可愛い彼女の一人や二人、すぐに出来るからさ」
勝手に振られたことになっているようだ。訂正するのも疲れるので、このまま放置しておこう。
「ガールフレンド候補なら良いですよ」
明らかに冗談で言っているのが丸わかりだ。でも、さらにややこしい話になって行きそうだ。もう止めたい……
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