第三章 少年期【下】

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「ノア、どうする? このままミナちゃんとお話を続ける?」 「いえ、別に良いです」 「ノアは酷いね。ねー、ミナちゃん?」  同意を求めるお母さん。それに乗るミナさん。同じ女の人だからだろうか、息が合っている。 不思議だな。僕とアベルさんの息が合っているのも同じ理屈だからかな。 「それじゃあ、遅くならないうちに家に帰ろうか。またね、ミナちゃん」 「はい。また、です。……ノア、またね」  椅子から立ち上がって、軽くお辞儀をしてその場を去る。  僕たちが図書館から出る間、彼女はずっと手を振っていた。縁があったらまた会う可能性があるかもしれない。一応、名前と顔は覚えておこう。  外に出ると、夕方になっていた。太陽が地平線の下に隠れそうなぐらいの時間。半日以上、街にいたのか。それはそれでびっくりだ。 「あ、ノア。ちゃんとタブレットの中に本を入れた?」 「それが……ネットの繋ぎ方がわからなくて……」 「あちゃー。それは盲点だった……。仕方がない、アベルに頼んでおこう」  そう言えばアベルさんが住んでいるところは何処なんだろうか。街に来る間、他の家なんて見えなかった。建物も、何も見えなかった。あるのは森と畑。そして地平線だけだったのに。  手を引っ張られて街の出口に向かい、また景色が変わる。  街の賑やかな声や人の気配は一瞬で消え、周りには畑と木、そして見渡す限りの地平線。気づいたらこうなっていた。本当に不思議だ。 「ミナちゃん。良い子だったね」 「そうですか? 僕にしたら苦手なタイプです」 「アハハ! ノアは女の子が苦手なのかな? だったら将来、結婚出来ないぞ?」 「別に構いませんよ。お母さんがいればそれで十分です」 「おや? それは私と結婚したいというプロポーズかな? 嬉しいけど、ムードが足りないな。四十点が良いところだ」  厳しい判定だ。せめて八十点は取れるように頑張ろう。  そのまま家に帰り、いつも通りに過ごし、日は過ぎていく。何事もなく、平和に。ミナさんと言う女の子の存在を忘れるぐらいに。
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