第四章 青年期【上】

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 でも、街に行けるのならそれはそれで楽しみだ。何せ、実に三年ぶりなのだから。 「そう言えば母さん。一つ聞いて良いですか?」 「一つと言わずに何個でも聞きたまえ」 「僕たち以外にこの辺に住んでいる人はいないんですか?」  三年以上六年以下思い続けてきた疑問を今口に出した。  僕たちはずっとここに住んでいるけど、アベルさん以外の人を見かけたことが一度もない。それはただの偶然なのか、それともここが田舎過ぎるのか。 「いないね。ここら辺は私たちしかいないよ」 「じゃあ、アベルさんはどこから来ているんですか?」 「アベルは……その……遠くから来ているんだよ」  何か曖昧な解答だ。色々とツッコミたいけど、これ以上聞いても濁されるだけだ。無理な詮索は止めよう。 「質問は以上かな?」 「はい。ありがとうございます」 「お礼なら今晩の料理を作ってくれ。久しぶりにノアの手料理が食べたい」 「良いですよ。何が良いですか?」 「なんでもいい!」  それが一番困る。  今なら六年前に母さんに初めて言ったその言葉の意味がわかる。その答えだと非常に、面倒だと言う事を。     
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