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街に来て、目当ての服屋を探している。
三年ぶりに来たこの街は全然変わっていない。相変わらず人通りが多い。この歳で迷子になる可能性は低いけど、一応注意しておこう。
「さて……あの店はまだ健在かな」
「閉店……という意味ですか?」
「そうだね。お気に入りの店が閉店するのは悲しいことだ。だから私は何とかしてあの店にお布施をあげている」
なにをしているんだこの人……!?
素直にそう思ってしまった。
「まあ、行けばわかるだろう。ノア、はぐれないようにね」
「いつまでも子供扱いしないでくださいよ。僕も大人なんですから」
「ハハハ、そうだったね。じゃあ、立派な男性なら私をエスコートしてくれ」
母さんが僕の腕に抱き着いてきた。これでは恋人同士だと思われてしまう。だから恥ずかしい。
母さんに止めてくれと頼むけど、「エスコートしてくれよ」との一点張りだ。頑固だな。
しかし僕は、あの店がどこにあるのか覚えてない。ここは母さんに任せるしかない。
「道を教えてください」
「あー、そうだったね。ノアはもう覚えていないか。……仕方ない。エスコートは終わってからだ」
非常に残念そうな顔をして僕から離れて行った。それはそれで悲しいけど。
母さんの隣で一緒に歩く。目的地の店を目指して。
人混みをかき分けて、しばらく歩き、お目当ての店にやって来た。まだまだ健全のようだ。通常営業をしている。
変わっているところと言えば、店員が変わっているところか。前の人は辞めたんだろうか。
そんな小さな疑問を持ちながらも、店の中に入る。
店の中は全くと言って良い程変わっていなかった。服の位置も、マネキンの位置も、何もかも。ここまで変わっていないのも珍しい。
「それじゃあ一人で探してきて。私は自分のを探すから」
「わかりました」
一旦母さんと別れて行動をする。自分が気に入った服を探す為に。
並んでいる服を吟味しながら、一着ずつ手に取り、今の自分に似合うかどうか確認する。
だけど、僕に似合う、僕のセンスに反応するような服は見つからない。
似合いそうな服は有ったのだけど、値段が高すぎた。これじゃあ母さんの財布を痛めることになる。それは避けたい。
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