第四章 青年期【上】

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 別の服を手に取っていると、一人の店員がやって来た。 「何か、お探しですか?」  どこかで聞いたことがあるような声だ。でもどこで聞いたんだろう。  店員の声がした方向に首を向けて顔を見る。 「……ノア?」 「……ミナ……さん?」  そこにいたのは三年前に図書館で出会った女性、ミナさんだった。顔はだいぶ変わっているけど、根本的な形は変わっていない。とても整った顔をしている。 「久しぶり! 元気にしてた!?」 「え……ええ。元気にしてましたよ。この通り、筋肉も付きましたし」  腕に力を入れて力こぶを作るポーズをとる。 「流石農家の子供。たくましくなったね」 「ミナさんは何でこんなところに?」 「私はバイト。今年から始めたばかりの新人だけど、やる気だけはあるよ。ノアはどうしてここに?」 「純粋に買い物に来たんです。あ、そうそう。店員さんなら僕に似合う服を探してくれませんか? 自分じゃわからなくて」  自分に出来ないことをミナさんに教えてもらおうとお願いする。だけど、冗談のつもりだ。仕事の邪魔をする気もない。 「いいよ。どんな色が好み?」  あっさりと引き受けてくれた。その事に驚いて小さな声で「えっ」と言ってしまった。 「私はここの店員だよ? お客様が求めている服を探してあげるのが私の仕事。仕事の邪魔をしちゃ悪いかな、って思っているんでしょうけど、これも仕事だから。さ、どんなのが好み?」 「え、えーっと……」  どんなのが好みとか言われても、どういうのが好みなのか自分でもわかっていない。  ここはどう答えるべきか…… 「……あ」  閃いた。 「最近の流行の服って言うか……人気の服はありますか?」  逃げ道の『流行』と答えた。 「最近の流行かぁ。ちょっと待ってね」  ミナさんは僕から離れてどこかに行ってしまった。待てと言われたので大人しく待つことにする。
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