234人が本棚に入れています
本棚に追加
別の服を手に取っていると、一人の店員がやって来た。
「何か、お探しですか?」
どこかで聞いたことがあるような声だ。でもどこで聞いたんだろう。
店員の声がした方向に首を向けて顔を見る。
「……ノア?」
「……ミナ……さん?」
そこにいたのは三年前に図書館で出会った女性、ミナさんだった。顔はだいぶ変わっているけど、根本的な形は変わっていない。とても整った顔をしている。
「久しぶり! 元気にしてた!?」
「え……ええ。元気にしてましたよ。この通り、筋肉も付きましたし」
腕に力を入れて力こぶを作るポーズをとる。
「流石農家の子供。たくましくなったね」
「ミナさんは何でこんなところに?」
「私はバイト。今年から始めたばかりの新人だけど、やる気だけはあるよ。ノアはどうしてここに?」
「純粋に買い物に来たんです。あ、そうそう。店員さんなら僕に似合う服を探してくれませんか? 自分じゃわからなくて」
自分に出来ないことをミナさんに教えてもらおうとお願いする。だけど、冗談のつもりだ。仕事の邪魔をする気もない。
「いいよ。どんな色が好み?」
あっさりと引き受けてくれた。その事に驚いて小さな声で「えっ」と言ってしまった。
「私はここの店員だよ? お客様が求めている服を探してあげるのが私の仕事。仕事の邪魔をしちゃ悪いかな、って思っているんでしょうけど、これも仕事だから。さ、どんなのが好み?」
「え、えーっと……」
どんなのが好みとか言われても、どういうのが好みなのか自分でもわかっていない。
ここはどう答えるべきか……
「……あ」
閃いた。
「最近の流行の服って言うか……人気の服はありますか?」
逃げ道の『流行』と答えた。
「最近の流行かぁ。ちょっと待ってね」
ミナさんは僕から離れてどこかに行ってしまった。待てと言われたので大人しく待つことにする。
最初のコメントを投稿しよう!