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「この子、私が買おう」
そう言ってくれた人がいた。
こんなやせ細った体で力もない僕を一体誰が買うのかと思い、僕を買う人を見てみた。
その人は女性。そして純粋に綺麗だと思った。
繋がれていた鎖を外されはしたが、僕にはまだ首輪が残っている。この首輪の先をその女の人が持っている。
「私は君を買った。君の全ては私が持っている。何か言いたいことはある?」
言いたいことなんてない。強いて言えば“楽にしてほしい”かな。
当然、そんなことを言える訳もなく、僕は沈黙を続けた。
それをどう受け取ったのかは知らないけど、その女の人は僕の首についている首輪を外した。
「――ッ!? なにを……!?」
商人――今まで僕を生かしてきた人が驚いた声を出している。こんな予想外のことをした人は初めてなのだろう。
その人に、彼女は冷静に答えた。
「人は縛るものじゃない。人は自由であるべきだ」
自由であるべき……彼女はそう言った。
今まで僕は自由と言うのを感じたことがあるだろうか。……いや、無い。僕は今まで自分が自由だと思ったことは一度もない。
だけど彼女がそう言うのだから、きっと人間は自由であるべきなんだろう。
自分の飼い主の行動を理解出来ないまま、動けないでいる僕に、彼女は僕の頬に手を当ててきた。
「これからは私と共に、自由に生きよう」
昔の母親を思わせるような微笑みを浮かべて僕に話してきたこの人を信じていいのかと悩んでしまう。
信じたくても僕は人を信じることが出来ない。出来なくなってしまったのだ。
だからこの人に僕の心が開く日は永遠に来ない。来ないんだ――!
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