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第一章 少年期【上】
その人に連れて行かれ、僕は田舎の田舎。ほとんど人が来ないような、自然に囲まれた場所まで来ていた。
懐かしい……。僕が住んでいたところもこんな感じで周りが自然に満ち溢れていたな。
数少ない思い出を振り返っていると、いつの間にか一つの家にたどり着いた。
「今日からここが君の家だ。好きに使うと良いよ」
そんなことを言われても、僕は鎖に繋がれていた生活の間に、奴隷としての知識、常識をこの体に叩き込まれた。好きに使えと言われても、体が拒否反応を起こしてしまう。
「私は君の声が聴きたいのだけど……声が出ないのかな?」
僕の声が聴きたい……? 何を考えているのかさっぱりわからない。
でも、主人がそう言うのだからその通りにしよう。
「ぼ、ぼくは……」
久しぶりに声を出したせいか、まともに声が出ない。出そうと思っても出ない。
どうしたらいいのか不安になる。この人を怒らせてしまったのかと。
だけど、その人は優しい声で「良い声だ」と言ってくれた。まだ会ってほんの数時間しか経っていない僕を、初めて会った僕を褒めてくれたのだ。嬉しくてたまらない。たまらくて涙が出そうになる。でも、僕の涙は枯れてしまっていて涙が出ることはない。
「では入りたまえ。一番乗りを許すよ」
玄関の扉を開いて、先に僕を家の中に入れてくれた。
家の中は普通だった。これ以上無いかと言うぐらい普通だった。
食卓に椅子、そして台所と思える場所。それぐらいしかなかった。それでも僕にとってはそこが天国に思える。
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