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ただただ立ち尽くしていると、彼女は僕の背中を押してくれて家の中を案内してくれた。
リビングに、個人の部屋が三つ。浴室にお手洗いの場所を教えてくれた。
「酷いことを言うようで悪いけど――君、臭う」
遠回しに僕の体が臭いと言っている。
当然だ。僕は奴隷として売られてからお風呂に入ることはおろか、体を洗うことも許されなかった。体から異臭が放つのは当たり前だ。
「すぐにお風呂の準備をしよう。……一緒に入る?」
一瞬反応が遅れた。女の人と一緒にお風呂に入るなんてことは卒業していたからだ。それに、僕のような家畜がこんな綺麗な人と一緒に入ったら汚れてしまうと思ったからだ。
「い、いい……で、す」
「いい? その言い方だと良いのか悪いのかわからないな。もう少しはっきりと言ってくれないと伝わないぞ。それとも……強引にされるのが良いのかな?」
何だろう、この人の言い方……。何だか良くわからないけど、僕がピンチだと言うことだけはわかる。
はっきり言わないと――! でも、声が……声が出ない――!
何とかして拒否をしたいのだが、声が出ないので焦ってしまう。
「……ふふ」
彼女から笑い声のようなものが聞こえてきた。小さな声だったが、それは次第に大きくなっていき、やがて……
「あっはっはっはっは!」
大笑いまでになった。
お腹を抱えて大笑いしている。そんなに僕の反応は面白かったのだろうか。嬉しいような、悲しいような、何だか複雑な気分だ。
「はっはっはっは! ――あー、面白い。面白いよ、君。まあ、そうだね。君は男の子だからね。女と一緒にお風呂に入るのは嫌だろう」
わかっているのなら意地悪をしないでほしい。少しだけ腹が立ったので目を鋭くする。
「……うん、決めた」
何を決めたのだろうか。
「無理矢理一緒に入る!」
それは決めてほしくなかったな。
すぐに逃げようとして走ったのだが、僕の筋力は予想以上に衰えていたので、簡単に捕まってしまった。
地獄の入り口のように思えた浴室に、無理矢理連れて行かれた。連れて行かれたと言うより拉致された、と言った方が正しいのかもしれない。
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