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「さっぱりした?」
お風呂上がりに何も無かったかのように聞いてきた彼女に対して沈黙を続ける。
「中々可愛かったよ。初心な反応なんて久しぶりに見たからね」
初心な反応……やっぱりこの人は僕の反応を楽しんでいるんだ。
人を馬鹿にするのは酷いことだと小さい頃に教わった。だから、僕は怒る。
「……あんまりですよ」
声が出た。前の、昔の僕の声だ。ようやく普通に話せた。
「おや? 声が出ているじゃないか。――私の裸を見たと言うショックが大きかったせいかな。結果オーライと言う奴だな」
結果だけ見ればそうかもしれないけど、僕の心に衝撃的な出来事が刻まれてしまったのだ。それはとても大きな代償だった。
用意された服に着替え、僕は食卓の椅子に座らされた。
「綺麗になった後は腹ごしらえだ。何か好きなものはあるかな? 何でも作ってあげよう」
好きなもの……好きなもの……
思い出せない。僕は一体何が好きだったのか、どんな食べ物が好きだったのかが思い出せない。
「……なんでもいいです」
食べられるものならなんでも良かった。お腹を壊さないものならなんでも良かった。あの場所で食べる粗末なもの以外ならなんでも良かった。
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