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「ふむ、なんでもいい、か。それはまた無茶な注文だな。それは世界中のお母さんを敵に回す発言だぞ? なんでもいいと言っても作ったものに文句を言われては困る。とにかく、文字通り『なんでもいい』から何か言いなさい」
本当になんでもいいのに……何でこの人はここまで僕のこと世話をするのだろうか。
僕が好きだったものを微かな記憶を頼りに思い出す。
「……シチューが良いです」
残っていた記憶の中で思いだしたのは、売られる前に母親に作ってもらったシチューだった。あれが出た日は一日中幸せな気分でいられたものだ。
「シチュー、か。うん、良いね。それじゃあ今から作るから……そうだな、数十分くれ。その間、君は眠っていると良い。さっき案内した部屋のどれでもいいからそこで寝ていなさい。出来たら起こしてあげる」
僕の飼い主は、僕のことを信頼しているようだ。
もし僕がここから逃げ出したらどうする気なんだろう。殺すのかな……。それでも構わないけど、本当に……本当に自由にしてくれるのなら……
言われた通りに空いている一つの部屋に移動し、そこに置いてあったベッドに座る。
程よい弾力がするベッドだ。こんな上等なものを僕が使って良いのだろうか。
そう思っていたのだが、そこに座るだけで眠気が襲って来た。ゆっくりと目を閉じていくと、体は重力に従ってベッドの上に倒れた。
そして僕はそのまま寝てしまった。
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『夢を見た。
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