第一章 少年期【上】

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 刺されたはずの私が倒れないのに驚いたのか、後ろにいる男が再び私の背中を刺していく。何度も、何度も。刺されるたびに鋭い痛みが走る。 「なんでコイツ死なねえんだよ……!?」  私より後ろで刺している奴が焦り始めたようだ。  ――まあ、当然だろう。普通の人間は刃物で刺されたら痛みで倒れる。痛みで脳がそう体に指示を出すからだ。でも私は違う。  私は――『人間』ではないのだから。  数える気も無くしたぐらいに刺されたが、そろそろ言葉を発してもいいだろう。 「……気はすんだか?」 「ば……化け物かよ、こいつ!?」  私の体に刃物が刺さったまま、後ろにいた男が後ずさりを始めた。 「馬鹿野郎! 何手を止めてんだ!」 「だってよ……! こいつ、何回刺しても倒れないんだぞ!」 「痛覚でも麻痺させているんだろうが! そんなことより、早くしろ!」  痛覚を麻痺、か。それが出来たら苦労はしない。  痛みは脳が体に送る危険信号。それを遮断すると言うことは体がボロボロになっても気づかないと言う事だ。最近の科学ならそれも可能かもしれないが、そんなことをすれば人間を辞める羽目になる。……私のように。  立ったまま背中に手を回し、刺さっている刃物を引き抜く。  ……なるほど、これは普通の刃物より痛そうだ。     
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