奇妙な住人

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ひとりで生活していた時と何か大きく変わったかと言われれば特に変化はない。 お互い別々の部屋で過ごし、ご飯は自分が作りたい時に自分の分を作って食べ、食べ終わったら自分の食器は洗っておく。今までと何ら変わりはない。 強いて言うならお風呂に入る時に声をかけるようになったことくらいだが、大して生活に支障はない。 二人での生活が始まり1ヶ月が経ち、一人で生活していた時に話題になっていたニュースも鳴りを潜め、彼女と意見の食い違いが起こることなく平穏な生活を送っていた。 そんなある日家の中を掃除している時に彼女の部屋の前を通りかかった。少しだけドアが開いていて女の子の部屋を覗き見るなんてどうかとも思ったが、彼女はお昼ご飯を買いにコンビニに出かけていて、ちょっとだけならという好奇心が理性に勝り覗き見て唖然とした。 何も無いのだ。最初に彼女が持ってきたカバン以外何も。本や服、勉強道具などが部屋に置かれた形跡もない。ただ何も無い部屋の床に閉じられたままのカバンが置かれているだけだ。 勘は鋭くない自分でも思った、おかしい、と。 部屋の中に集中しすぎていて後ろに立った人の気配に気づかなかった。 『見ました?』 びくっと肩を震わせながら後ろを振り返り答える。 『え、、な、、、なにを、、?』 彼女はなにも言わなかった。責められるのが嫌で言い訳がましく話題を振った。 『い、いやさ、掃除機かけてたらドアが少し開いてたもんでちょっと中が見えちゃっただけでさ。ごめんね、本当に悪気は無いんだ。』 おどおどしながら言い訳を述べる自分が自分でも滑稽に見える。 『そ、、それにしても、荷物とか何にも無いんだね。』 悪気は無いことを述べたうえで、やはり気になってしまい聞いてみた。 『はい。必要無いですから。』 (え。必要無いってどういうことだ…?) 『高杉さん。少し前にこの辺りで通り魔事件があったの知ってます?』 『え?ああ、あのこの辺りで黒いレインコートを着たやつが無差別に殺し回ってるみたいなやつだったよね確か。でも最近はテレビでもやらなくなったし、もう捕まったんじゃないかな?』 『高杉さん、実はそいつ捕まってないんですよ。』 『え…?』 彼女の部屋の前に置き去りにしていた掃除機を片しながら部屋に入った彼女とドア越しに話していた僕は手を止め、ふと顔をあげた。
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