戦火の数だけ

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戦火の数だけ

   世界には多くの戦争があるという。その戦火の数だけ、悲しみが生まれる。  なんて、俺にとっての「世界」には関係ないよな。俺たちにとっての戦争とは、「平和」によって歴史の教科書の奥にしまい込まれたデータでしかなかった。そのデータは実感なんて残さず、ページをめくると去ってしまった。一つ前の戦争なんかは、まだ技術が発達しきってなかったので、大した記録も残っておらず、作り話のようにしか思えない。  あの教師やニュースキャスターでさえ、そう思わざるを得なかっただろう。  夕暮れ時の放課後はとても静かである。赤く染まった校舎は、今思えば美しいものだった。教室には二人俺と、最近付き合い始めたユイが自分の席で必死に課題を終わらせていて、時折紙をめくる音がした。夕暮れを知らせる針が何処を向こうが、関係ない。その時は止まっているかもしれないとさえ思って思うほどだ。 手汗が滲むシャープペンシルを片手にノートを睨んでいた。     
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