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僕は公園のベンチで、遊歩道に並び立つ薄紅色に染まった桜の木をぼんやりと眺めていた。
「あの、」
沈黙の空気を震わせたのは控えめな女性の声。背後から聞こえたそれはこちらを怪しむ色を滲ませている。僕はなるべく余計な警戒をされないよう注意しながらその場で上半身を捻るように彼女へと顔を向けた。
「女性の1人歩きは危険ですよ。ああ、僕はただ花見酒をしたくてここにいるだけなので、あまり警戒しないでください。」
「ひとりで、花見…お酒、ですか。」
「はい…。騒がしいところは好きではなくて。」
「……私もご一緒したら、迷惑でしょうか。お酒は、結構なので。」
「…どうせならお酒も一緒に。無理にとは言いませんけど、嫌いですか?」
少し遠慮がちに同席の提案してきた彼女を、手に持っていたまだ口を開けていない銀色の缶を差し出しながら誘えば、彼女は人差し指を下唇に添えながら少しだけ悩み、返事の代わりに差し出された缶を受け取った。
「お隣失礼します…」
僕がベンチの端へと寄れば彼女は反対側に寄るようにして腰掛けた。2人がけのベンチの真ん中には、子供が1人入れるぐらいのスペースが空いている。
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