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「桜、好きなんですか?」
ぼうっとその光景に見惚れていれば、悩み終わったらしい彼女がそんな僕をみて問いかける。
「いや…、これらも近いうち散るんだと思って。もうすぐ雨が降るから。」
「でも、来年も咲くじゃないですか。」
彼女の何気ない言葉に、頷くことはできなかった。
同時に会話はそこで途切れ、風に揺れる木々の音だけがその場に響く。
それから数分か、はたまた数秒だったのか。じっと桜に向けていた自分の視線をゆっくりと隣の彼女へ移した。
肩まで伸びる艶やかな黒髪と、白いブラウスと桜色のロングスカートというシンプルな服、加えて彼女のおとなしい雰囲気は、清楚そのもので、偏見かもしれないが、今時の子では珍しいタイプだ。
そんな彼女は、泣きそうな横顔で桜並木を眺めている。
「大丈夫?ハンカチ、いる?」
思わず声をかけてしまえば、彼女はハッとしたように目元を拭って、恥ずかしそうにハニカミながら首を横に振った。
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