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「なんか、不思議です。すごく綺麗で、静かで…、落ち着くんですけど、寂しいような気もして。って、すみません、変なこと。」
こちらを見ながら話す彼女だったが、その目は僕越しに別の…、たとえばどこか遠くを見てきるような、そんな感じがした。
「……会いたい人でも、いる?」
僕の、少しだけ踏み込んだ問いに、彼女は最初と同じように人差し指を下唇に当てて考え込み、そして悲しそうに笑った。
「どうでしょう。…実は、なんでここにいるかも分からなくて。ただ、気付いたら目の前のベンチに男の人が座ってて、自然と声を掛けてて。」
「…それは、帰る場所が分からないってことだよね?不安じゃない?」
照れ笑いする彼女には申し訳ないが、明るく終わらせようとしている空気を壊す。すると彼女は、そっと目を閉じて下を向いた。
先程とは違う沈黙が場に止まるが、僕は黙って彼女を見つめた。黙り込む彼女だが、手元の缶を回したり、淵を指でなぞったりしているところを見ると、落ち着かないらしい。
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