翠の瞳

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「琢磨どの、どうかなされたか?」 難しい顔の琢磨に烏丸が声をかけた。 「いえ、何も・・ 月華王から今までの報告をと」 琢磨は玖珠里に纏めさせた報告書を烏丸に渡す。 烏丸はその報告書をざっと見た後で琢磨お茶を勧めた。 「琢磨どのは独り者と聞きましたが、月華王の御付きではなかなか出会いも難しいのでは?」 烏丸はそう言うと明日の琢磨の予定を聞いた。 「そうですか・・ 奈良なれば、俺の縁に繋がるあやかしが小さな宿を営んでおるのですが・・」 「あの・・ それはどういった・・」 「いや、お若いかた達を連れての務め・・ もしよければ休憩場所として使ってください」 烏丸の言葉に少し違和感を感じながらも、明日の務めを思う。 確かに大勢の若い者達を連れての務めはほねが折れる。 葛葉の言ったとおりその統制だけでも今から先が重いやられる。 集合場所や休憩に目立たぬ場所があるのは正直ありがたかった。 「烏丸様、お世話をおかけします。 御厚意、感謝して使わせて頂きます」 「そうですか。 それではそのように手配を」 そう言うと宿の住所や電話番号が書き留められたメモを手渡してくれた。 「宿の主は黄鋼丸(きこうまる)と言って、人と天狗族の半妖です。 おれとは母親違いの弟にあたります。 遠慮なく使ってください」 (腹違い・・) 琢磨は思わず烏丸の顔を見る。 「ああ、気になさらずとも・・ 子供の頃は一緒に暮らしていたのです。 ただ、弟は長の座を巡り争いが起きる事を嫌って母親の里の旅館を継いだもので・・ 今でも時々は二人で酒を飲むんです」 「そうでしたか」 琢磨は自分の態度が烏丸に要らぬ心配をさせたのではと少しだけ後悔しながらも、兄弟の仲が良さそうだと嬉しく思った。
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