時渡りの一族

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「若、風が変わります」 「ああ、皆はもう?」 「はい。 後は私と若の二人だけにございます」 若と呼ばれた若者が足を止めて振り返る。 その目線の先には南国の夕陽に包まれた屋敷が見えた。 「またこの屋敷に戻って・・ いや今は問うまい・・ 琢磨、皆に遅れる。 行こう」 若者は前をしっかりと見る。 その手には黄金に輝く水晶が握られていた。 その昔、あやかしや魔物を統べる王が京の都を襲う厄災神と戦った。 熾烈を極めた戦いの末、厄災神は滅び、王の軍に列した魔物やあやかしも京の都から姿を消した。 其から千年・・ 平成が終わりを告げる年の秋、ふたたび京都の街を脅かす厄災神が復活を遂げようとしていた。 「烏丸様、鞍馬の石灯籠に明かりが灯りました」 「そうか! では皆にふれを!」 京都の北を守る天狗の長、烏丸(からすまる)が魔物やあやかしの長達を集める為に号を発する。 今は遠くの島に暮らす古(いにしえ)の鬼神の末裔からの助けが到着した事を皆に知らせる為だ。 間もなく厄災神との新たな戦いに備えるべく話し合いが持たれる事となった。 鞍馬寺奥の院下の洞窟の中の隠し御堂に集まったのは、京都に残る僅かなあやかしや魔物達の長、しかし時の流の中その半数以上は人間との半妖となり、人間界で生きていた為に殆どの者は魔の者としての能力を欠いていた。 「もはや我らに厄災神と戦う力はない。 鬼の末裔とて同じだろう」 「何を気弱な、我らが守らずして誰が都を守る」 「もはや都ではない。 日の本の都は遠い東に移った」 「いや、日の本の都は今もこの京都だ。 其が証拠に東(あずま)からの手勢は来ぬではないか。 それとも添え状は東には出さなかったのか?」 「いや、遠方の鬼族にさえ出したのだ、東に出さぬ筈はない」 烏丸が着いた頃、皆は話し合う処か他の物へ依存し、自分達が巻き込まれる事への不安を次々に口にしていた。 「静まれ! 直に月華王の末裔と手勢の方々が席に着く。 今は他国となった者達でさえこの京都の街を守ろうと遠路遙々来られたのに、そなた達はそのような弱気な事ばかり」 烏丸は席に並ぶ長達の顔を見回した 「そなたは月華王の縁に繋がる者ゆえ、向こうも無下にはすまいよ」 皆の中から嫌みのような声が聞こえる。 烏丸がきっと睨みを皆に向けたその時だった。 「戦いに向かぬ者は席を立たれよ。 共に戦う方だけ残られるが良い」 烏丸の後ろから声が響いた。 皆が一斉に戸口の方を見る。 大柄な男の後ろから、まるで少女のような顔をした美しい青年が部屋に入って来た。
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