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「すみません・・
これが今の日の本の実態です。
己の未来さえ己では守ろうとしない。
席を立った者の八割が金で済まそうとし、二割はさっさと帰って行くでしょう」
「叔父様良いのです。
あやかしや魔物と言えど命はひとつ。
ましては半妖ともなれば人との関わりも深い。
妻や子は自分が半妖等とは知らぬ者さえいるのが現実な位僕も分かっているつもりです。
ここはこの鬼族にお任せを」
烏丸は改めて若者の顔を見る。
幼い頃一度だけ会った月華王の容姿に寸分違わぬその姿。
そして自分の大祖父で、千年前天狗族から只一人厄災神との戦いに赴いた大天狗の曾孫に当たるこの若者は、千五百の兵を引き連れ時を渡って来た。
しかも後千の兵が後から到着すると言った。
「叔父様、どうなさいました?」
楠葉にそう聞かれ我に戻る。
「いいえ・・
何も・・」
「ああ、この姿ですか?
僕も初めからこの姿だった訳じゃない。
ある日突然にこの姿になったのです。
叔父様、島の鬼族には昔から言い伝えがある。
ひとつは、この姿になった者は月華王の名を継ぐ者となる事。
そして鬼族の中にこの姿になった者が現れた時、厄災神もまた甦る事。
厄災神が蘇ったなら必ず、其を鬼属の手で滅する事・・
僕の生まれた島では純粋な魔物やあやかしはもういない。
人との半妖や他の種族との混合等ありとあらゆる組み合わせの魔物やあやかしが暮らしている。
だから島では皆平等で人や魔物あやかしの区別もない。
けれどごくたまに、僕のように強く種の個性が表に現れた者はその一族を纏める長や王としての教育を受けるんです。
そしてそれは全て、厄災神を滅する為の準備を怠らぬ為」
「そうなんですか・・
俺達は大祖父のお陰で純粋な烏天狗のままで今も鞍馬の山で暮らしている。
あの戦いに参戦出来なかった者の殆どは種を守る事ができた筈なのに・・」
若者は肩を落とす烏丸を見つめる。
「叔父様、時の流れです。
何人たりとてその流れを留める事は許されない・・
しかし僕は、只その流れに流されているだけなどは望まない。
必ず、なにがしかの成果を持って帰ります」
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