「僕でよければ」

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「一目惚れ、ってことで、しょうか」  私は、一度小さく首を振ってから、彼を睨んだ。 「その年で?って言うか、私に聞く?」  追い打ちをかける度にあたふたする彼を見ているのが、だんだん楽しくなってきた。 「あ、いや、その、笑顔でない女性を可愛いと思ったのが、その、初めてで」 「はいはい、どうせ私は愛想がないですからねぇ」  少し皮肉っぽく言ってみる。  それにしても、このおじさんはなんなんだ。  二回り、いや、もしかしたらそれ以上歳の離れている私に、どんな感情をいだいたというのだろう。  とはいえ、それは特別嫌なものではなかった。  私は、中退前に父を亡くしている。中退の原因もそれ。  母は、専業主婦で、突然の父の死にあたふたするばかりだった。  いざ、仕事を始めても、一週間も続かず辞めてくる。  長年、家庭に入りっぱなしだったから、社会の波に耐え切れなかったのだ。  要するに、甘ちゃんだった。  そんな風だったから、余計に思い出すのだ。  父の懐の深さを。父の愛情の深さを。  だからなのか私は、年配の人に惹かれてしまう。  多分、父親の影を追ってしまうのだろう。  でも、その年代の人は、皆家庭を持っていた。  人様の家庭を壊してまで、自分の幸せを追いかける気にはなれずに、いつしか私は笑顔を忘れた少女になっていた。  その時にはもう、少女と言える時期は過ぎてしまっていたけれど。  
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