「僕でよければ」

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「そうじゃなくて」  彼の表情が少し、真剣な顔つきに変わった。 「笑顔じゃないのに、なんて優しい表情をする人なんだって、思ったんです」 「ふーん」  私は素っ気ない返事を返した。  でも、内心はちょっと嬉しかったりもした。  そんな風に言われたことはなかった。  今まで出会ってきた人達はみな一様に、私を見ては「笑顔!笑顔!」と、まるで責めるように言った。  今度は、私の方が少し動揺してしまった。  それを必死に隠すように、壁に飾ってある、名も知らない絵画に視線を向けた。  動揺を悟られない様に、静かに深呼吸をしてから、私は彼に視線を戻した。 「おじさん、一人身?」 「はい?」 「だから、おじさんは独身?彼女は?」  彼はナイフとフォークを上に向けたまま、動かなくなってしまった。 「もしもーし」  その人の目の前に手をかざし、何度か振ってみせた。  体をびくっとさせて、我に返ったかのように、その人は私を見た。 「い、いません、よ。残念ながら・・・・・・」
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