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「信じなければ、見えない」
「これって、桜なんですね」
私は、この二年で憶えた笑顔を、その老人に向けた。
それにしても。
どこから湧いて出てきたのだろう。さっきまで人の気配はなかった。
「地元の、方、ですか?」
いつの間にか愛想笑いに変わっている自分に気付かないまま、尋ねてみた。
「さあ、の」
そう言って、その老人は笑った。
ぼけているのか。
とぼけているのか。
その細い目からは、何も読み取れない。
「地元と言えば、地元じゃが、おぬしの言うのとは、ちょっと違うのう」
言いながら、その老人は、右目を少し開いて私の顔を覗き込んだ。
「何か、悲しい事でもあったんかい」
なんだか、胸の内を見透すような瞳をしている。
「え、いや、その」
涙は流してない。気持ちも少し落ち着いてきている。
それなのに、この人には何が見えているのだろう。
老人は、暫く私を見たかと思うと、ゆっくりと体を起こした。
「まあ、おぬしなら、大丈夫じゃよ」
「大丈夫?私の何が分かるっていうの」
なんでも知ってる風な事をいう識者気取りは、過去に何人も見てきた。
私は少しムキになってしまった。
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