「ありがとう」

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「どこに・・・・・・行く、の?」  やっとの思いでそれだけ言ったけど、トキはそれには答えずに、代わりに何かを差し出してきた。 「安物だけど・・・・・・」  都内にいた時も、こっちに来た時も、生活は結構カツカツだった。  だから、婚約指輪も、結婚指輪も、式もいらないよ。  私はそう言って、トキに付いてきた。  駆け落ち同然に。 「黙っててごめん。実は、この半年間、友達に紹介してもらって、居酒屋でバイトしてたんだよ」 「・・・・・・嘘」 「で、帰り際に、残ったお酒の処理だとかいって飲まされてて、さ。昨日は最終日だったんだけど、ついつい店内で眠ってしまって」  トキが鼻の頭を掻いている。  これは、照れくさい時の彼の癖だ。 「だから、その指輪は、生活費の心配しないで、胸を張って使ってくれよ、な」 「べ、別に、黙ってなくても、い、いいじゃ、ない」 「結婚記念日まで、黙ってようと思って。ホントにごめん」  私の頬をつたう涙は、なんといえばいいのだろう。  話している間にも、車はいつの間にか小高い山の中を進み、いつしか山頂近くのひらけた場所に出た。
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