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「お礼、させてあげよっか」
トキとの出逢いは二年前の秋。
高校を中退した私は、都内のコンビニでアルバイトをしていた。
そこに現れた客の一人、それがトキだった。
店内で品出しをしていた私の足元で、何か音がした。
そこに目をやると、お世辞にも厚みのない、茶封筒の様な色褪せた財布が落ちていた。
視線の更に先には、よれよれのグレーのコートに身を包んだ、白髪交じりの初老の男性が、手に缶コーヒーとあんパンを持ってレジに向かっている後姿。
店内には、客はその人しかいなかった。
「あの、これ、落としませんでしたか」
私が声を掛けたが、聞こえていないのか、振り向いてもくれなかった。
「あ、あの」
その人の肩を、ポンポンと叩いて、やっとその人が振り向いた。
その人は無言で振り向くと、私の顔を見たところで、目を見開いて固まった。
「これ、お客様の、ですよ、ね」
そう言って財布を差し出したけど、その人は微動だにしない。
「・・・・・・お客様?」
私は少し首を傾げながら、その財布を相手の目線まで持ち上げて見せる。
「え?あ、ああ、これは、僕の」
我に返ったかのように、その人は慌ててその財布を手に取った。
改めて見てみると、その人はそこまで歳ではない様に見える。
四十代後半くらいだろうか。
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