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「冬が来る前に咲く・・・」
思い出すと可笑しくなる。
あんな出逢いもあるんだな、なんて、たった二年前の事を懐かしく思う。
どうしてトキは、あんな風になっちゃったんだろう。
行くあてもなく歩くこの土地の風景が、とても新鮮に見える。
ここにきて一年になるのに、この街をこうして歩くのは初めての事だった。
近くにスーパーもない、錆びれた街に住んでいるから、出掛けるにはいつも車だった。
若干高齢化の進むこの街では、近所付き合いもほとんどなかった。
こうしてゆっくりと眺めてみると、静けさが私を優しく包み込んでくれている様な感覚に陥って、もう少し早く気付けばよかったな、なんて思う。
日本海から流れてくる北風が、潮の香りと冬の到来の予感を運んでくる。
初めてこの土地に来た時、立ち寄った道の駅にあった、風力発電用の風車は、今日も轟音をたてながら回ってるのかな、なんてふと思った。
その日、お揃いで買った安物のくらげのキーホルダーは、今でも所在なさげに、私のハンドバックで、音を立てて揺れている。
当時の、期待と不安にまみれた気持ちを思い出し、少し視界がかすんでしまう。
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