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フラフラしながら少し歩いていると、住宅街が切れた先に、小さな公園があった。
二つのブランコと一台の滑り台しかないその公園は、桜の木で周りを囲まれている。
きっと春の花見の季節になると、地元の住民でごった返すであろうその公園は、今は人っ子一人いない。
弱弱しい風に吹かれて、無人のブランコが錆びの擦れるような音を立てて、微かに揺れた。
そう言えば、近くの公園でお花見出来るところがあるからって、トキが言ってたっけ。きっとここがそうなんだ。
足元は整備されてないのか、雑草天国だ。
今の私の気持ちのようね、なんて思いながら、導かれるように敷地内に足を踏み入れた。
ここからは海は見えないが、波の音が遠く聞こえる。
反対側は、山の斜面になっていて、それが風よけになっているのか、余り肌寒さは感じない。
私は、山際のほうが風よけになるかなと思いながら、ゆっくりと歩を進めた。
伸び放題の雑草を避けるように、足元を見ながら歩いていた私は、公園の端近くまで来て、ふと顔を上げた。
「これって・・・・・・」
桜?
公園に植樹された木ではなかった。
その向こう、山と公園の境目位のところに、ひっそりと生えている、細い木。
その木の枝に一輪、白くて小さな花が付いている。
私にはそれが、桜の花に見えた。
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