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 この国で術士になるのは大変な事である。  一つの術を覚えるために何千頁にも及ぶ書物を読破し、科学的・心理学的知識を身に付け、その上で術力を行使しなければならない。  書物を苦労して読破したとしても、適性がなければ術は使えない。だから術力のみで術を使う他の国よりも、この国で術士になろうとする者は少なかった。  その日、術士官王宮使のコルエラ・レクトスは、小さな弟子のレイリと共に、上司である術士官副長に呼び出された。揃いの術士官服を身につけ、長い廊下を歩く。 「レイリに『記憶の複製』の研究に協力してもらいたいのだが、どうかな」  応接室で椅子に座る間もなくそう問われる。副長は多忙なのだ。 「なんでしょう、それは」  コルエラは尋ねながら頭の中で『卑怯だな』と呟く。  これは大事な話なのだろう。それを事前の連絡も無しに、今ここで考える間も無く決断させる気なのだ。もしかすると弟子一人に決めさせるつもりかも知れない。  純白の術士官服を整えながら副長は言う。     
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