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一年近くかけて憶えることを二か月で一気に憶えるということに、コルエラは自分の過去を思い出して不安を感じた。だがバートから『レイリは優秀だ』と聞かされている。すぐに術法を修得できるだろう、と心の隅では確信していた。
「楽しみだなー」
そう言ったレイリは夢見心地だ。コルエラは、『レイリは自分とは違う』と思った。術法を学ぶことに喜びを見出している気がする。
この子は立派な術士になるだろう、とコルエラはレイリを誇らしく思っていた。
術法の複製が始まった。複製の結果はレイリは『良好』、しかしディラインは『やや不良』であった。
ディラインは記憶の欠落がどうしてもなくならなかった。以前複製した内容と重複している箇所がある為、辛うじてやや不良となっている。憶えきれなかった箇所を限定して再び記憶を複製して、やっとレイリに追いつく形であった。
ディラインは焦った。レイリにできることが、何故自分にできないのか。しかし改善しようにも、何をどうすることもできない。送られた記憶を確実に受け取れない『自分』に明らかに原因がある。だが自分にはその責任はないはずだ。
正体不明の圧力に、彼は耐えられなくなりつつあった。
「おはようディライン」
いつものようにレイリに笑いかけられる。しかし彼は、いつものようにレイリに笑顔を返すことが、できなかった。
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