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「おはようディライン」
笑顔のレイリを前にして、ディラインは何の感情も起こらなかった。気分が悪く、口を開きたくなかった。
レイリが怯えたような顔をして心が傷むのを感じ、やっとディラインは、自分が間違いを犯したことに気が付いた。
「ああ、おはよう。悪い、ぼーっとしてた」
それでも渋面を緩めるだけで精一杯だった。レイリはすぐに気を取り直して明るく話す。
「今日は杖が貰えるんだよね。楽しみだね」
杖を貰ったところで、自分は術を使えないだろうとディラインは思った。レイリとの差がまた広がるのだ。
『杖』は術法を使う際の『鍵』であった。杖を使って訓練することによって、杖がなければ術が使えないように習慣付けるのだ。
そうすることで誤って術が発動することを防ぐ。また、直接体から術を発するより安全であったし、一点に気を集中させることに役に立つため、全ての術士が杖を所持していた。
「今日から術を使わせられるのか」
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