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レイリと相反してディラインは気が重いばかりだった。バートには『君に問題あるのではなく、レイリが元々記憶力が恐ろしく良いのだ』と言われたが、そうだとしても研究結果が望ましくなく、研究者を落胆させていることに変わりはなかった。
その日の複製と確認が終わると、屋外の実技訓練場へ移って杖を渡された。レイリには細工の施された白銀に紫水晶を嵌め込んだもの、ディラインは杖ではなく意匠の凝った剣で、柄に紫水晶を嵌め込んだものであった。
「わぁ、かっこいいなあ!」
自分専用の杖は初めて手にしたにしても、術士の弟子であるレイリにとっては見慣れたものなのであろう。ディラインの手の中の剣を何度も何度も羨ましそうに眺めた。
杖についての説明が終わると、レイリにはヴェラルダが付き、少し離れた場所でディラインの横にバートが立って術の実技の指導が始まった。
ヴェラルダは要人警護が職務であったが、予定のない日はバートの補佐をすることになっている。
ディラインは指示通り剣を逆手に構えた。バートは同じように杖を構えて見本に術を放った。横に払った杖の先から、赤い炎の帯が同じ軌跡を描いて消えた。まだ一つの術の全ての複製が終わった訳ではないので、本当に初歩の術だった。
ディラインは心の迷いだけでも消し去ろうと努力した。ここで術が使えなければ、今までが無駄になる。
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