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 炎は、起こった。青白く鋭い炎の帯が、小気味良い音を立てて空を裂く。 「合格だ」  バートが驚いた顔のまま呟く。 「随分と質の良い術だったな。炎が最高温だ」  ディライン自身も驚きと、そして喜びが隠せなかった。久し振りに心が軽くなる。憶えたことは、無駄にはならなかったのだ。 「ありがとうございます」  ディラインはバートに深々と頭を下げる。バートは頷いてみせたが、その表情は何故か不可解そうであった。 「どうしました?」 「いや、おかしいな」  ディラインの表情が再び曇る。バートは難しそうな顔で告げた。 「悪いが、君の今の知識でさっきの炎は起こらないはず、なんだ」  レイリは離れた場所から青白い炎を見て焦っていた。ヴェラルダの指示通りにやった。それなのに、術は発動しない。 「もう一度やってごらん」  言われて繰り返しても、一切何も起こらなかった。 「術力は感じるから術は使えてるんだろうね。ただ、効果がかなり小さいだけだよ」  そう言われても、レイリには何の気休めにもならなかった。完璧にできなければ意味がない。  更に細かく指導を受けたが、その日は一度も炎を見せることができなかった。 「君はまだ小さいから一度に複数の想定ができないんだと思う。でも大丈夫だよ、ちゃんと憶えているんだから、いつか使えるようになる」  帰り際、ヴェラルダはそう言ったが、レイリにはそうは思えなかった。  術士となるべく育てられたのに術が使えない。それは、今までの幸せな生活を全て否定することだった。過去だけではない、未来も喪失したような気分にレイリは陥った。  実技訓練場を引き上げる。ヴェラルダがすっかり落ち込んだレイリを抱き上げた。 「大丈夫だと言ったろう? この研究は記憶の研究なんだ。憶えていればそれでいいんだよ、別に今すぐ術を使えなくても構わないんだ」  それを聞いてディラインは思った。では、自分は? 憶えていない自分は何なのだ?  術を使えたことを歓迎されていない、これは一体どういうことなのだ。
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