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「ここに引き取られたのが七つの時だから、五年は全然術が使えなかった。適性がないから孤児院に帰してくれって言ったくらいだ。お前は七つで、俺が十二の頃を越えている。適性があるのも俺には判る、心配するな。でも」
コルエラはレイリの涙を拭った。
「できないことをするのは辛かったよな。憶えるだけでもお前の為になると思ったんだ。ごめんな」
「ううん」
レイリはコルエラが辛い顔をしたので悲しくなった。自分はコルエラを辛い気持ちにさせている。術がうまく使えない不安はなくなった。しかし。
コルエラが言葉を続ける。
「やっぱり、手順はちゃんと踏むべきだった。できる時にできる術を俺が教える。記憶の複製は、やめよう」
しかし、レイリの気分は晴れなかった。ディラインのように、突然コルエラに嫌われるかも知れない恐怖は、去らなかった。
レイリはコルエラと共に研究室へ向かった。休んでいろと言われたが病気な訳ではなかったし、ディラインが研究室へ訪れるのは今日が最後なのだ。まだレイリはディラインが自分を嫌いになったのは間違いではないかと期待していた。
研究室ではディラインの記憶の複製の確認は終わっていた。既に帰り支度をしてバートと、そして研究の総責任者である術士官副長と会話をしている。
二人に深く礼をしてディラインは入口に足を向けた。コルエラ達を見て、再び礼をする。そして、扉を抜けた。
コルエラは、しばらく会わないうちにディラインの雰囲気が変わったことに驚いた。レイリと言葉も笑顔も一切交わさない。レイリが不安定なことに彼の態度が関わっていないかと、何か不穏なものを感じた。
「遅い」
副長の声にコルエラは我に返った。連絡をしなかったことを謝罪し、続けてレイリの記憶の複製の中止を訴えた。
バートは頷きながら聞いていたが副長は表情が固く、最後まで述べると息を吐いた。
「それで、結局複製自体は問題なかったんだな?」
「ええ」
バートが気まずそうに答える。
「なら今度は人選基準を変えろ。比較が問題なら一人にしても構わない」
問題は漠然としたものの積み重ね、被験者がレイリとディラインでなければ成功したのかもしれない。
しかしコルエラは、この研究は間違っていると思えてならなかった。
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