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「ディラインは魔法を使えるじゃないか! 使ったら駄目って言われたって、おれより凄いよ!」
一生懸命に訴えたが、ディラインは再び目を逸らした。そして右手を森に向ける。鋭く空を切る音に続いて、木の幹に複数の小さな亀裂が入った。
レイリが驚いてそちらを凝視すると、今揺れた木以外にも亀裂の入った木が何本もあった。過去にもここで術を放っている。
レイリはディラインに向き直る。ディラインの下ろした右手とその袖が、杖を使わなかったために術の余波で数カ所切り裂かれていた。
「魔法を使えても、何もいいことなんてないだろう」
「駄目だよディライン、危ないよ、誰もいないときに練習したら! それに、魔法をたくさん使ったら、死んじゃうよ!」
ディラインは血のにじむ右手を見る。魔法を使って更に体から生気が抜けたのを感じた。
「いいさ、それでも」
再び素手で風の術を放つ。
ディラインは術を使う度に消耗していたが、術を使うこと自体は快感であった。
空を裂く音が、炎が唸る音が心地よい。切り裂いた痕跡が、膨れ上がった炎の色が美しい。思った通りの、それ以上の術を放ったときの恍惚とした感じ。
ずっとその気分に浸るのも悪くない。
そのまま死んだとしても、別に構わない気がした。
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