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17
レイリはとっさにディラインの腕にしがみついた。術の余波で軽い痛みがいくつか走る。髪が何本か舞って地に落ちた。
「駄目だよやめてよ!」
ディラインは煩わしそうにそれを振り解く。しかしその勢いで眩暈を覚え、均衡を崩し地に手をついた。
立ち上がろうとするディラインに、レイリはまたしがみついた。止めようにも説得の言葉が思い浮かばない。焦りだけが募る。
ディラインをそのままにしたら、本当に死んでしまうと思った。
ディラインは苦心してなんとか立ち上がる。腕の痛みはもう感じなくなっていた。ただ、術を放ちたいという思いだけが頭の中を占めていた。
あの心地よさを再び味わいたい気分だった。
コルエラは森を歩いていた。家でレイリの帰りを待つ気になれず、探していたのだ。
もうすぐ森を抜けるというところでレイリの声が聞こえた。切羽詰まった雰囲気を感じ、足早に森を出る。
そこにレイリとディラインはいた。レイリがしがみついたディラインのその袖は、何故か無残に切り裂かれている。
「どうした?」
「コルエラっ」
レイリが泣きそうな顔で駆けてくる。
「ディラインが!」
コルエラの目の前で、ディラインが術を放つ。
「ディライン、危険だ、やめなさい!」
ディラインは杖があるときのみ術が発動するように十分訓練されていない。
使うものが術法ではなく魔法では、どんなに危険かコルエラには解らなかった。
ディラインは小川に向かって炎を放つ。コルエラはレイリを背に庇い、杖を取り出してディラインに精神を平定させる術をかけた。術を放つ為の集中力を霧散させるはずだったが、ディラインには効かなかった。
ディラインは集中などしていない、ほとんど本能で術を放っていたのだ。
「ここで待ってろ」
レイリに言い残し、コルエラは立ち尽くすディラインの元に駆け寄った。
ディラインはかなり体力を消耗していて、立つのもやっとのようだった。その右手を手に取り、コルエラは回復促進の術をかける。
彼もレイリと同じなのだろう。周りが気付かないうちに、心が病んでいた。
研究が思い通りにいかないことは多々ある。だがそれが当然で、そのための研究なのだ。
しかし二人は研究の結果を『データ』として受け取って割り切ることが、できなかったのだ。
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