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「記憶の複製は、やはりやってはならないことだったんだ」  コルエラはディラインの右手に回復の術をかけながらつぶやいた。 「元々術の書物が何千頁もあるのは、読み手に本当に術を使うことができるか試すためなんだ。本気で術を使おうと思わなければ、最後まで読みきることは無理だから」  コルエラはディラインの右腕をそっと下ろす。 「少しずつ読み進みながら、その知識が今の自分に得られるのかどうか、試す時間が必要なんだ。自分の欲する知識を、自分の速さで得ていくべきだったんだ。そうしていれば、着実に知識を吸収していれば、ディラインも記憶の欠落を補う必要もなかった。術を使えたはずだ」  そしてレイリもゆっくり時間をかけてできることから取り組んでいけば、憶えたことができないと苦しむこともなかったのではないだろうか。言い終えるとディラインは、わずかに顔をしかめた。苦しそうに胸を押さえる。 「もう、どうだっていい」  途端、ディラインを中心に突風が巻き起こった。コルエラは咄嗟に自分とレイリに防御の術をかけ、二三歩後退った。  防御は簡単だ、しかしディラインに術を止めさせなければ、彼が危険だった。ディラインの服が、顔が、鋭い風圧で傷ついていく。  言葉も届かず術も効かない彼を、何としてでも止めねばならない。  周囲を見回す。レイリのいる場所まで風は届いていない。  コルエラは術を解除し、利き手に持った杖を投げ捨てた。  そして風の刃に構わず突風の中心に勢いよく踏み込み、ディラインの複部に拳を叩き込んだ。  二人はもつれるように川岸に転倒した。  辺りが静まり返る。  体中に痛みが走って起き上がることができなかった。 「レイリ、杖を取ってくれ」  レイリは焦ったようにコルエラのもとに駆け寄り、杖を手渡した。  コルエラは自分に痛覚麻痺の術を素早くかけて、ディラインを川岸から引き上げる。そして彼の体全体に高度な回復促進の術をかけた。  ふと気配に気付くと、レイリはコルエラの左腕を止血していた。いつの間にか袖が血を吸って重くなっている。 「レイリ、治安仕を呼んできてくれ。慌てないで、でも急いでな」  レイリは無言でうなずき駆け出す。  コルエラは術をかけながら、気が遠くなっていく感覚を覚えていた。
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