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術士としての知識をレイリが何の苦もなく得られるというのは魅力的だった。
コルエラは適性があるとして父に引き取られたが、術の修得が遅く父に何度も罵られたという過去があった。
レイリにはまだ術自体を教えてはいないが、何の障害もなく修得できるという確信もない。副長の申し出を受けることは本当にレイリの為になるのではないかと、コルエラは思い始めた。
その時。傍らに座っていたレイリが、コルエラの術士官服の袖を軽く引いた。
「コルエラ、おれ、やりたい」
レイリは期待に満ちた顔で言った。七歳の子供が今の話のどこに喜びを見つけたのか判らなかったが、それを尋ねる前に副官がレイリの頭を力強く撫でた。
「おう、ありがとう。じゃあ、さっそく今から研究室に案内するか」
「ちょっと待って下さい!」
コルエラは慌ててレイリの手を握った。しかし当のレイリがそれを制した。
「やるったらやるの! いいでしょう?」
強い調子で言われて、コルエラは止める言葉を無くしてしまった。
実験は済んでいる、レイリの将来の為だ、と自分を納得させる。諦めて、レイリの頭を続けて撫でてやった。
「わかったよ。頑張れ」
言うとレイリは緊張気味に頷いた。
研究室は応接室と同じ、ミナルテンドという施設内にある。
ミナルテンドは、術士の為の施設を集結したものだ。術を修得する為の訓練施設であり、全ての術士官を把握して職務を与える管理施設でもある。
コルエラも父の養子になってから毎日のように通っていたが、訓練施設と応接室以外にはほとんど立ち入ったことがなかった。よって同じ建物の中に研究施設があることは知っていても、実際に関わることは初めてだった。
研究室長は、名をバートといった。コルエラにとって国に十三人しかいない同胞の一人、知らない顔ではない。
副長とコルエラに挨拶をしてから、レイリと握手を交わした。
「研究の開始は三日後だ。普通の状態からの成果を確認したいから、何の心構えもなく来てもらいたい。いいね」
子供だからと優しくなる人間ではないらしい。コルエラは少し不安になったが、レイリが怖じ気付いたりしなかったのでバートに、そしてレイリに任せてみようかという気になった。
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