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3
その日は早々に家へ戻った。官服を脱ぎながらコルエラはレイリに、何故研究を引き受ける気になったのかと尋ねた。
「だってお金が貰えるんでしょう?」
レイリは小さな官服を脱ぎながらそう答える。
「お前なあ、言っとくが俺は金持ちだぞ?」
術士は国にとって貴重であるため、俸給も高かった。しかもコルエラはレイリを引き取る直前に父を亡くし、遺産も相続している。
「お金はたくさんあったほうがいいじゃない」
レイリは言い難そうにして背中を向けた。
この子はまだ自分の存在に引け目を感じているのだと、コルエラは思った。こんな時、『養子にしてやれば違っただろうか』と後悔の念がよぎる。
だが二年前、レイリが五歳で物心付いてから引き取ったのだから、養子にしたとしても自分達が本当の家族ではないことは判り切っているのだ。
コルエラは父という身分ではなくても、レイリに父親らしいことをたくさんしてやりたいと考えていた。
コルエラの父はコルエラを息子のように扱うことがなかった。まるで兄弟か友人のように接した。兄としてはまずまず面白い人物だったが、師としては物事の教え方が中途半端で、それなのに『自分に出来たことが何故出来ないのか』と自分を基準に叱り飛ばす。
コルエラは何故自分を引き取ったのかと父を恨み、何故皆に出来ることが自分に出来ないのかと自分を恨んだ。
父に頼らず自分なりに努力すればいいと気付いたのはいつ頃だったか。今では何とか王宮最深部の警備を任されるまでになることができた。
父は四年前、隣国に反乱鎮圧の兵として貸与され、不慮の事故で命を落とした。その時は家族を亡くした喪失感よりも、彼がひとり他国で死んだことが仲間として悲しいという念が強かった。
コルエラはレイリを自分のようにはしたくない。理解されずに心を削るようなことは絶対にさせたくなかった。
自分が父にして欲しかったことをレイリにしてやることが、自分の父としての仕事だと思っていた。
三日後、レイリをミナルテンドへ送り届け、コルエラは王宮に仕事に向かう。
あの子にとって今日はいわば初仕事の日だ。そう思うとコルエラは、何となく誇らしい気分になった。
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