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5
レイリはディラインが大好きだった。
研究二日目からは、ディラインに会うために研究室に来ているも同然であった。
ディラインと同じ年代の騎士はミナルテンドにも警備員として就いていたが、彼らは仕事中であったし、レイリも訓練施設で勉強をするだけで、彼らと会話をすることはなかった。
だから、ディラインはレイリにとって特別だった。
兄が出来たような気分だったのだ。かっこよくて力持ちで、遊んでくれて楽しい。
ある日、そう本人に言うと、
「コルエラさんの方がかっこいいだろう。王宮ではとても人気者なんだぞ?」
と教えてくれた。それでレイリは、ここ最近コルエラの事を忘れていたような気分になった。そしてとても申し訳ない気持ちになってしまった。
レイリが初めてコルエラに会った時、『かっこいい人だなあ』と驚いた記憶が確かにあった。
孤児院を訪れた明るく穏やかなコルエラに、子供達は皆すぐに懐いた。何日か滞在して、本を読んだり外で遊んだり、勉強を教えてくれたり術を見せたりしてくれた。
だから帰ろうとしたコルエラを皆で泣きながら引き留めたものだった。
それから数日が過ぎて、コルエラが自分を引き取りたいと連絡をよこしたと聞いて、レイリは嬉しくて熱を出すほど喜んだ。
驚くほど勉強しなければならないけれど良いかと問われて、レイリは迷わず『うん』と答えた。本を読むのは好きなので何も問題ないと思ったのだ。
実際勉強は問題なかった。教えられたことはすぐに理解することができた。
そしてコルエラは勉強を教えるだけではなく、レイリを海や山や遠くの市場などに連れて行った。レイリはそれがとても楽しかった。
だが、レイリはいつもその日の晩に思った。
勉強はこれだけでいいのだろうか?
猛勉強する覚悟で来たレイリには、この状況は物足りなかった。
レイリは、本当に賢い子供だったのだ。
研究に携わることは、レイリにとって歓迎すべき事態だった。もっとたくさんの知識を得て、コルエラに喜んでもらいたかった。
それなのにディラインと遊ぶことばかり考えていて、そんな自分がレイリは少し悔しかった。
頑張らなくちゃ駄目だ、とレイリは新たな気持ちで記憶の複製を受けた。
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