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6
布張りの椅子に深く腰掛けてディラインは呼吸を整えた。隣の椅子には三つ年上の術士のヴェラルダが同じ様に座っている。
彼が記憶の複製元であった。バートを介して、彼の記憶が自分の物となる。
指示に従いディラインは目を閉じる。バートの掌が額に置かれてしばらくすると、耳鳴りと自分の血が流れる音の様なものが交互に聞こえた。そしてそれが終わると軽い吐き気に襲われる。
記憶の複製はそれで終わりだった。自分の記憶とそうでないものの境目は、自分では解らない。
ディラインは落ち着いて椅子に座っているだけで良かった。負担がかかるのは思考の表層に精度の高い記憶を用意しなければならない複製元の人間と、それを正しく移植しなければならない術士だけだ。
研究はこれで終わりではない。確かに記憶が複製されたかどうかを確認する作業が必要であった。確認はその日のうちと、睡眠を置いた次の日の二回行われた。レイリが複製に入ると同時に、ディラインが当日の確認に入る。
その日の複製の内容は『大気』であった。大気中に含まれる組織を術に利用することは術法の基本であった。大気に関する地形や天候と気圧など、その内容はかなり複雑なものである。
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