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 公園の入口に立つ人影。その主は。 「……早瀬、くん?」  早瀬くんは鞄を担ぎながら、しっかりとした足取りでこちらに歩いてきた。 「探したぞ、坂下」 「どういうこと?」と聞きたかったが、驚きのあまり声が上手くでない。 「渡したかった。これ」  そう言って、制服のポケットから乱暴に取り出されたのは。 「……タスキ?」  早瀬くんはコクリと頷く。しかし、手から垂れたそれは、短いようにも思える。 「二つにちぎった。片方やる。記念だ」 「き、記念?」  早瀬くんは、唖然とする私にそれを突き付ける。 「坂下から受け取れて、よかった」  タスキが風に揺れる。早瀬くんは真っすぐ私を見つめていた。  夢見心地のまま、恐る恐る受け取る。すると早瀬くんは、何かを確認するかのように、強く頷いた。 「今日の勝利は、俺たちの誇りだ。特に、坂下。お前の」 「で、でも私、抜かされちゃって……」 「でも、一位になれた。最初十秒台だったおまえがここまでやれた。俺は、そんな坂下を尊敬する」  早瀬くんの力強い一言一言が、私の心を揺さぶった。  そんな、私。一人では何もできなくて。最初なんて早瀬くんが怖いから、練習してただけで。  なのに、尊敬、だなんて。  溢れる思いは言葉にならず、代わりに涙となって頬をつたった。  ありがとう。  でもここまで頑張れたのは、早瀬くんがいたから。  あの言葉があったから。 『俺は、お前からのタスキじゃないと、受け取らないから』  私を信じてくれた。その一言が、私を変えてくれたんだよ。  何事も諦めがちで、消極的な私を。  私達を繋いでくれた、このタスキ。  二つのタスキが、これからの私達をも、繋いでくれたらいいな、なんて欲張りなことを思ってしまった。
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