時間の止まった部屋で

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 僕の白い靴下をはいた足に、透けるその爪先に、────何かが触れた。   *  にゃぁ、とそいつは鳴いた。  死んでからついぞ無かった感触に思わず顔を上げると、見上げてくる淡い青と目が合った。  「猫……」  白が多めのお日様のような色合いは、とら猫だろうか。そのソックスを履いたような白く細い前足は、確かに僕の爪先を踏みつけている。これは、  「おまえも、幽霊なのか?」  同族同士なら触れ合えるのかと覗き込んだ僕にそいつは小首を傾げた。幽霊だからといって人語は分からないのだろうか?  「──こら、勝手に入って来ちゃダメでしょう」  と、突然視界に手が入ってきて驚く。手は子猫の腹の下に入り、子猫の身体は伸びをするような形で持ち上がっていく。みゃぁぁーと上に遠ざかる鳴き声につられて顔をあげれば、母が困った顔をして胸元に暴れる子猫を抱いていた。  母が見て触れられる、それはつまり────  (幽霊じゃ、ないのか)  母がこちらに背を向けて部屋から出てゆく。ドアがパタンと閉まった。 僕は自分の知らないうちにこの家が猫を飼い始めていたことを知った。  「……どうせ、何も変わらないさ」  誰にともなくうそぶいて膝を抱え直す。  目を閉じる寸前、ほこりがゆっくりと僕の透けた手をすり抜けていった。 *     
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