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そっと撫でれば、眠ったままの子猫がふんす、と鼻を鳴らした。
*
その日は、病院の日だったようで、尻尾を下げた子猫がいつものように飛び込んできた。けれど僕を見た瞬間にぴんと尻尾が立ち上がる。好かれたものだ。
目を輝かせて跳びかかってきた子猫は、いつかのようにもんどり打って床に転がった。
きょとん。そんな顔に思わず吹き出したとき、僕の声に別の音が重なった。
「っ、ふふ」
「ははは本当に元気がいいな」
いつの間にか部屋をのぞき込んでいた両親が、笑っていた。
目を細めて、肩を震わせるその姿に、ふっと胸が軽くなる。
僕を見る子猫の視線がぐっと上がって。気づけば僕は、宙に浮いていた。
────あぁなるほど。こんな成仏の仕方なんて、思い付くはずがない。
何となく伸ばした手に子猫が飛び付いてくる。その手はどんどん薄く、透き通ってゆく。
今まで長かったくせに終わりは案外呆気ないらしい。
「ありがとな。元気で」
二人をよろしく────
最後の言葉は、音にならずに、空気に溶けた。
────逃亡の末、捕まり抱き上げられた子猫が身を捩って部屋の奥を振り向く。
部屋から連れ出される瞬間。
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