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私を見てほしかった。彼女への想いを早く断ち切ってほしかった。だから、偽善にまみれた慰めの言葉をたくさん吐いた。
身勝手だった。自分の恋しか見えていなくて、義之への思いやりなんて欠片もなかった。残酷な、私。
自分の恋が自分にとって特別な、なににも代えがたいものだったように、彼にとってもそれは特別な恋だった。
そこに無理矢理ナイフを突き立てて、引きちぎろうとして。すでにたくさんの傷を抱えていた彼の心はそこで振り切れてしまった。
ずっと俯いていた義之の瞳に自暴自棄な光が灯って、虚をつかれた私が体を凍らせている隙に、彼は私の初めての唇を奪った。
――キスくらい減るもんじゃなし。
そのセリフを、彼はどんな思いで吐き出したのだろう。
巴ちゃんと初めて口付けた日に幸福そうに笑っていた彼は、どこにいってしまったのだろう。
宝物だったはずの思い出を、自分の手で切り刻み、葬り去るのは、どんな気持ち?
義之が派手な女性関係を繰り広げるようになったのはそれからだ。
私を手始めに、何人の女の子と寝たの?
好きな人が、ほかのたくさんの女の子と関係を持って、嫉妬する気持ちがないわけではない。
でも、妙に冷静に見れてしまうのは、義之が誰にも心を開かないと分かっているからだ。
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