綺麗になんてなれない

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 アパートに呼ばれた私と顔を合わせた彼の第一声がそれだった。  私の右腕にかかる食材の入ったレジ袋が、がさりと乾いた音を立てる。 「ご飯、作ろうかと思って。一緒に食べよ?」  外泊の許可はとったものの、義之と一晩中二人きりなんて初めてで、私になにができるかを考えた結果がそれだった。  一緒にごはんを食べて、お酒を飲んで忘れる。  我ながら安直すぎるとは思ったけれど、これ以外に案がなかったのだ。  だけど、義之は冷たく目を細めた。 「……気ぃ使ってんの?」 「え? ちが……」  否定しかけて、口をつぐむ。そのとおりだった。  そして自分の失策に気がついた。  義之の性格で、こんなあからさまなやり方を喜ぶわけがない。むしろ、逆鱗に触れるだろう。  早々に彼の機嫌を損ねてしまったことは、刺々しい空気が物語っていた。  どうしてもっと早く気付けなかったのか。  自分をなじりたくなったけれど、私自身、雅義くんの話に混乱していて考えが及ばなかったのだから仕方がない。  すぐ、ごめん、と言って出直そうとした。だけどそれは苛立ちの滲んだ声に遮られてしまった。 「そういうの、いらないから」  普段冷めている人が怒ったときというのは、背筋が凍ってしまうほど迫力がある。     
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