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しなくてはいけないことが確かにあった。そのために来たはずなのに、今の私には、呼吸すらもままならないような気がした。
下着をずらしてふるりと現れた乳房を指や舌でいじっている義之は、私がどんな表情をしているかなんて確かめようともしない。それがまた息苦しさを募らせる。
義之を癒やすなんて、どうしてできるなどと考えたのだろう。私は、思い上がっていたのだろうか。
自分はセフレの一人だからなんて言いながら、本当に辛いときには頼ってもらえるはずなんて、自惚れていたのだろうか。
二十年間ほとんどいつも一番そばにいたくせに、心の距離は全く縮めることができなかった。そんな無力な私が、義之にしてあげられることなんて、本当にないんだ。それこそ、身体を差し出すしか。
勇んで義之に会いに来た自分のオメデタイ思考の、なんと惨めなことか。
小さく小さく、義之にも聞こえないくらいのささやかさで、ふっと鼻で笑い、自分を嘲る。
なのにどうしてか、目元が熱くなって、視界がぼんやりと揺らめき始めた。目に映る世界が水の中のようにぼやけて、私はやっと自分が泣いていることに気がついた。
目尻からシーツに向かって真っすぐ落ちていく、ひと雫。肌に残った水滴を指ですくって目の前にかざせば、綺麗な無色の透明がそこにはあった。
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